下町ロケット
「ガウディ計画」ストーリー
~夢は必ず実現する~
Shitamachi Rocket

challenge

培ってきた編みの技術で世界に挑戦

福井経編は1990年ごろから委託加工だけでなく、自ら衣料品などの製品を企画・販売する「自販」の活動を開始してきた。その中心人物が代表取締役髙木義秀氏だ。そして髙木氏は国内にとどまらず世界への挑戦を試みたのである。
それは、2010年9月世界最高峰のファッション素材見本市「プルミエール・ヴィジョン」に参加することだった。当時、日本からの出店企業は28社ほどで、半分以上が上場企業だったという。“どうしたらこの世界最高峰の展示会でこの福井経編の技術のインパクトを残せるか”髙木氏は試行錯誤し、当時は難しいとされていたシルクの糸を編み込む技術を開発したのだ。結果は“あそこは面白いものを作っている”と世界から注目を集めた。シルクなどの天然繊維は切れやすく、ましてやそれをハードな機械で編み込むというのは他社には決して真似できない技術だったからだ。

technology

  • シルクを編み込む技術で人工血管

    福井経編が新技術を発表してから髙木氏は新たな挑戦を決意。それはメディカル分野への挑戦だ。“シルクの糸で人工血管を編めないか?”という、ある大学教授からの問い合わせがきっかけだった。“私たちの技術が、病気で苦しむ人たちの助けになるかも知れない”という熱い思いだけが根源だったという。狙ったのは6ミリ以下の細い小口径人工血管。
    髙木氏は社内で人工血管プロジェクトチームを結成し、毎日試作と検証を繰り返した。
    簡単に人工血管といっても口径のサイズや、密度の調整、しかも血栓ができにくい人工血管を成功させるのは至難の技だった。やがて試行錯誤を経て、見事に小口径人工血管の製造技術の開発に成功したのである。

  • chance

  • 根本教授との出会いが前進させた心臓修復パッチ

    人工血管の成功は多くのメディアから注目され、大阪医科大学の心臓血管外科医・根本教授の目に留まり髙木氏に連絡が入った。すぐに根本教授の病院に行くと、手術室の前には海外製の医療機械がずらりと並んでいた。“日本には素晴らしい技術があるのに、どうして海外製品ばかりなのか”根本教授と髙木氏は意気投合し、医療機器開発のアイデアを語り合った。根本教授によると、先天性に心臓に病気のある子どもの手術に使う材料である心臓修復パッチは、現在のものは劣化や伸展性に課題があり、手術術式によっては5年間に約50%の子どもが再手術を受けている現実があるという。患者である子どもと、その家族にとって大きな負担となる心臓手術は、できるかぎり一回で終らせたい。再手術を回避するには、成長に対応する心臓修復パッチがあればいい。埋め込んだ後は、子どもの成長と共に伸びていくような布素材の心臓修復パッチをつくれないだろうか?という内容だった。 髙木氏は根本教授と共に心臓修復パッチの開発を決意した。そして子どもの成長に合わせて一緒に伸長するパッチの開発は自社の技術で可能となった。また、ポリマーの知見を持つ大手企業帝人株式会社との協働が実現し、開発は一気に加速していった。

GAUDI plan

  • 作家池井戸潤氏との出会いで生まれた「ガウディ計画」

    心臓修復パッチの開発に没頭している髙木氏に新たな出会いがあった。
    それは友人を通して作家池井戸潤氏から新作『陸王』の取材として、シューズ用のメッシュ素材についての説明を依頼されたのだった。
    当日、シューズ材についての説明を終えた後、髙木氏は「池井戸先生、あと30分だけお時間頂けますか?」と切り出した。そして池井戸氏に心臓修復パッチの開発に挑戦していることを熱く語ったのだ。偶然にも『下町ロケット』の続編で人工心臓の話を書こうとしていた池井戸氏。髙木氏は「是非一度、福井へ来て開発現場を見てください」とその後も連絡を取り続け、ついに池井戸氏が福井に来たのだ。
    髙木氏は根本教授と池井戸氏も引き合わせた。一緒に根本教授の元へ行き、手術見学もした。そして生まれたばかりの子どもが必死に生きようと戦う姿を目の当たりにした。「手術の成功を知った時、ただ溢れる涙が止まらなかった。必ずこの子たちに役に立つ心臓修復パッチを作り上げようと決意したのです。」と髙木氏。そして『下町ロケット』の続編「ガウディ計画」が出来上がった。「陸王」と同じTBSテレビ制作のドラマ「下町ロケット」では撮影にも協力し、実際の工場で臨場感溢れるシーンが撮影された。

  • 下町ロケット ガウディ計画
    池井戸 潤/著 小学館文庫

dreams come true

  • 製品化に向けて邁進

    福井経編では、2017年5月医療機器の国際品質規格『ISO13485:2016』の認証を取得した。織りや編みの繊維メーカーでの取得は国内初であった。また、医療用のクリーンルームも完備し、心臓修復パッチは大阪医科大、帝人株式会社と共同で開発を進めており、経済産業省、AMEDの「医工連携事業化推進事業」にも二期連続で採択されたのだ。さらに、2018年4月、厚生労働省の「先駆け審査指定制度」の対象品目に指定され、優先的に相談や審査が受けられることになり、早期の実用化につながる可能性が出てきた。
    心臓修復パッチは2021年の薬事申請を目指している。髙木氏は「パッチを製品化できれば患者の身体的、経済的負担を軽減できる。1日でも早く販売できるよう進めていきたい」と夢の実現に向かっている。